大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 昭和55年(わ)210号 判決 1981年4月24日

裁判所書記官

野村和夫

本籍

中野市大字草間一、一五一番地

住居

右同

会社役員

小林實夫

昭和一四年七月一六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官服部三男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二、〇〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、長野県中野市大字草間一、一五一番地において、冷凍機販売・修理業を営んでいたものであるが、所得税を免れる目的で、売上の一部を除外するなどして、簿外資産を蓄積する等の不正の方法により、所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五二年度の実際所得金額が、一億二六万三八三円あったのにもかかわらず、同五三年三月一一日、長野県中野市中央一丁目五番二〇号所在の信濃中野税務署において、同税務署長に対し、所得金額が、二、七九三万三、六〇四円であり、これに対する所得税額が、一、〇八一万五、三〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、同年度の正規の所得税額五、九八六万五、二〇〇円と右申告税額との差額四、九〇四万九、九〇〇円をほ脱し、

第二、同五三年度の実際所得金が、一億一、六三三万八二四円であったのにもかかわらず、同五四年三月五日、前同税務署において、前同税務署長に対し、所得金額が、一、八九三万一、九六六円であり、これに対する所得税額が、五九四万一、一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、同年度の正規の所得税額七、一八六万五、一〇〇円と右申告税額との差額六、五九二万四、〇〇〇円をほ脱し

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書六通

一、被告人作成の「答申書」と題する書面四通及び上申書と題する書面一通

一、小林シゲ及び徳竹愛子の検察官に対する各供述調書

一、小林シゲ(三通)、徳竹愛子(二屋)、大川隆三及び渡辺嘉一の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、大蔵事務官滝本栄治作成の現金、預金、有価証券等確認書

一、大蔵事務官楢本五一作成の簿外売上調査書

一、大蔵事務官遊佐久司作成の簿外仕入註費等調査書及び冷凍機受払調査書

一、大蔵事務官金沢正安作成の簿外たな卸金額調査書、簿外減価償却資産調査書、簿外支払利息等調査書及び脱税額計算書二通

一、信濃中野税務署長福島滋隆作成の証明書

一、滝沢泰義作成の「査察事案関係書類の送付について」と題する書面

一、押収してある総勘定元帳二綴(五二年分及び五三年分。当裁判所昭和五六年押第四号の一及び二)、売上帳、領収証控三綴(五三年分木島平ほか、前同号の三)、五四年売上帳一綴(木島平農協ほか、前同号の四)、売上入金控一綴(五三年一〇月から同年一二月分、前同号の五)請求書控一冊(木島平その他の五三年三月から五四年六月分。前同号の六)及び小林実夫決算関係書類入封筒一袋(前同号の八)

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官金沢正安作成の修正損益計算書(昭和五二年度分)

判示第二の事実につき

一、右同人作成の修正損益計算書(昭和五三年度分)

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第二の所為はいずれも所得税法二三八条一項、(一二〇条一項)、二項に該当するところ、各所定刑中懲役刑及び罰金刑をそれぞれ選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については、同法四七条前段により、情状の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については、情状により所得税法二三八条二項を適用したうえ、刑法四八条二項により各罪所定の罰金を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二、〇〇〇万円に処し、同法一八条により、被告人において右の罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人は、所得税を免れるため、税務調査のおよびにくい遠隔地の売り上げや現金で受け取った売り上げについて正規の帳簿から除外し、期末のたな卸、仕入れ、交際費などについてもその一部を除外するなどの不正な方法により所得額をごまかし、その蓄積した所得について、自宅のタンス内に保管したり仮名で預金するなどして秘匿していたものであり、本件犯行はきわめて計画的である。また不正な申告によりほ脱した金額は、昭和五二年度分で約四、九〇〇万円、昭和五三年度分で約六、五〇〇万円、合計一億一、〇〇〇万円余もの多額にのぼり、その結果は重大であり、さらに被告人は本件犯行の数年前から継続して脱税を行っていたこともうかがえるのであって、これらを考慮すると、被告人の刑事責任は重大であるといわねばならない。

ただ、被告人は、会社形態をとれば個人企業より税法上有利だということを知らず、高額の累進税率を免れるため本件犯行におよんだものであり、個人企業の経営者としては研究不足であるとしても、一沫の酌量の余地がないとは言えず、また本件発覚後は、その非を素直に認めて、修正申告を行ない、ほ脱額の全てを納付し、今後は正しい納税をなすべき旨約していることが認められるので、これら被告人に有利な情状を考慮して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林宣雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例